船舶の省エネ装置・プロペラボスキャップフィンズ

  • COLUMN

    コラム

    環境

    補助推進力としての風力活用の重要性

    補助推進力としての風力活用の重要性

    田中 良和(技術顧問 商船三井テクノトレード株式会社、神戸大学客員教授)

     

    2021年8月9日、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が最新の報告書を発表しました。この第6次評価報告書では、人間の活動が地球を温暖化させていることは疑いの余地がないとはじめて断定され、国連のグテーレス事務総長は人類に対する緊急警報だと訴えています。

    今回発表されたIPCCの報告書によると、世界はすでに1.1℃温暖化しているので、世界の排出量を現在のレベルから削減できなければ、2030年までに1.5℃目標に対する残余カーボンバジェット(排出してもよいと許容される炭素予算)を使い果たしてしまう可能性があるとされています。

     

    その為、IMOのGHG削減戦略(50年にGHG総排出量を08年比で半減し、今世紀中のなるべく早い時期にゼロエミを目指す)では手遅れになると、50年にゼロエミを目指すべきとの声も高まっています。IMOでは23年春までに戦略見直しの議論をまとめる予定です。

    一方、ゼロエミを目指す上でのキーは代替燃料です。

    CO2を出さないクリーンなアンモニアや水素やメタノールなどを燃料として使うための技術開発が始まっています。新燃料を安全に使うため、船級協会もプロジェクトに参画して安全基準作りを進めています。ただ、原油と違い掘れば出てくる魔法の燃料と違い、一から合成しなければなりません。よって、代替燃料は現在の燃料価格の2~3倍になると予想されています。現在の舶用燃料はウクライナでの戦争の影響もあり10万円以上/トンと高止まりの様相を呈していますが、それ以上の燃料コストになるのは間違い無いと思います。

    又、代替燃料はどれもエネルギー密度が低く化石燃料の2倍から4倍のタンク容積が必要となります。

    化石燃料を用いた従来船に比べると初期投資額とライフサイクルコストは大きくなると同時に、代替燃料のインフラの整備費用も燃料価格に掛かってくるので、まず省エネルギーを進めて燃料の使用量を少なくする必要が有ります。

    省エネルギーの為にESD(エネルギー・セイビング・デバイス)の搭載はもとより、船底摩擦を低減する為に高性能防汚塗料を塗布する、船底の表面粗度を低く維持する為7~10年程度のインターバルで船底の全面ブラストを行う、今まで以上に緻密にウェザーニューズ社などの情報をもとに荒天回避を行うなどハード面ソフト面で、何でも利用せねばなりません。

    中でも、現在利用していない再生可能エネルギーの太陽光や風力等の利用も候補に挙がります。が、太陽光はエネルギー密度が低いので船の推進に利用するに少々力不足です。一方、風は200年前まで風力が船の主要な推進動力であった時と1隻当たりの輸送量が桁違いに増えていて、推進に必要なエネルギーも同じく増加しています。風力を有効に使用する為には、別のコラムに記載有りますが、風力利用の技術革新を利用することも今後必要になってきます。

     

    ゼロエミへの移行は始まっており、来年から始まる実燃費格付制度(CII)では、今後IMOで議論される27年以降の基準値が、非常に厳しくなる可能性もあります。実燃費を向上させるレトロフィットなどの対策が必要になると思います。船舶運航者は今後毎年努力をしなければならない状況です。

     

    最初に述べたように温暖化1.5℃目標を達成する為、代替燃料の投入タイミングは技術革新が出来次第に行う必要性が出てくると思います。2020年代後半には代替燃料の新造船は当たりまえになっている可能性が強いと思っています。

    コラム一覧へ戻る