船舶の省エネ装置を通して、世界のクリーンな未来を切り拓く。
PBCF事業部 技術専任部長 小野 志郎
PROJECT
Q.改良型PBCF開発プロジェクトには、どのように携わられましたか。
私は2009年頃から改良型のPBCFの開発に携わってきました。改良型開発のきっかけとなったのは、PBCFの基本特許の消滅です。ご存知のように特許というのは申請日より20年経てば権利が終了します。開発プロジェクトでは、それに代わる新たな技術を開発し特許化をすること、さらに当時模倣製品が増えてきたこともあり、競争力のあるPBCFを作り販売促進に寄与することも目的の一つでした。オリジナルブランドとしての威信をかけ、より優れた技術で高い効果のPBCFをつくりたいという思いで研究開発をスタートさせました。
形状を決めるにあたって、あらゆる船に対応するためプロペラに対するピッチ角や位置関係などをよりシビアに考えて設計を進めました。初期PBCFの開発当時より、種々のプロペラ(4〜6翼)に対応したフィンの高さや長さ、角度などを決める計算式をつくっていましたが、さらに最適な形状を開発するため、水槽試験やCFD(コンピュータによる数値流体解析)を利用してより適切な設計を可能にする設計チャートをつくり、実船で検証を行いました。
TECHNOLOGY
Q.改良型PBCFの特徴と、開発の中での最大の課題について教えてください。
改良型PBCFの特徴の1つ目は、フィンの高さが従来型よりも高いことです。2つ目の特徴は、フィンの働きとして船首側はより強い効果を発揮しています、一方、フィンの船尾側は抵抗成分が多いことがわかり、船尾側部分をカットして形状をスマートにしたことです。また、改良型の3つ目の特徴としては、PBCFのフィンピッチを半径方向に少しずつ変えフィンにねじりをつけていることです。
我々は、改良型の形になる前に、PBCFの性能を向上させるためには、フィンの高さを上げれば省エネの効果が上がる事、しかし一方ではフィンを高くすると抵抗も増えるので、ある程度の高さになるとそれ以上効果が上がらない事の2点を長年の実験とCFD(コンピューターによる数値流体解析)で分かっていました。
しかしながら、フィンの高さが高いほどフィンの根元に受ける荷重が大きくなるので、この部分を厚くしなければならず、さらにその場合、胴体部分も比例して厚くしないといけないのでPBCF全体の重量が非常に増えてしまう課題にぶつかりました。
PBCFはプロペラの軸の後端に装着されるので、軸の後端が重くなれば軸のたわみが変わってきてしまい、船尾軸受の寿命が非常に短くなってしまいます。後端が重くなればプロペラ軸系から全ての改修が必要になるケースがあり、より大きな設計変更をしなければいけなくなります。そうならないようにする事が我々の一番の課題でした。
SOLUTION
Q.重量を解決するために貴社が取った手段とは何だったのでしょうか。
重量を大きく変更せず、高さをある程度で抑えて、それ以上に高くしたものと同じような効果を発揮するために我々が導き出したのが、「フィンにねじりをつける」ことでした。我々はそのねじりを加えたPBCFをCFDで計算し、PBCFにかかる荷重を解析した後、強度解析(FEM解析)によって強度を確認し、許容範囲の中でできるだけフィンを厚くしないで、結果的には従来型よりも少し軽量化がすることに成功しました。
一般的に船は進水時や改造時には日本海事協会等の船級協会にて安全性に関する検査を受ける必要があります。しかしPBCFは規定上問題のない、プロペラ重量の約3~4%に抑えており、しかも操縦性にはほとんど影響がないので、船にとってはバイタルな製品ではありません。そのため主要船級協会の審査が不要となっています。PBCFがもし軸系に影響の出るような重量を持った製品であった場合には、軸そのものの再検査をする必要が出てきます。さらに、他社の溶接が必要な省エネ製品と比べると、PBCFはボルトでの取り付けであるため、溶接が不要であるという特徴もあります。溶接が必要な製品の場合は、船体は熱を帯びると変形するケースがあるため、船級協会の検査を受ける必要になる場合がありますが、PBCFにはその工程がありません。船級による検査が不必要な省エネ装置であるということは、お客様にとっては一つのメリットになります。このように、改良型PBCFは独自の技術で船と船主様に大きな負荷をかけることなく、取り付けが可能となりました。
CHALLENGE
Q.これからのPBCF事業の展開を教えてください。
PBCFは水中騒音を低減することもできる海洋生物に優しい製品です。欧米諸国では海洋生物の生態系保護のため水中騒音を計測しているエリアもありますが、PBCFを取り付けると水中騒音が低減されているとご好評いただいています。また、我々の論文でも特定の周波数帯にてPBCFを取り付けると約5dBほど低減できることを明らかにしています。
CO₂排出量削減、水中騒音低減等多角的に環境保護に寄与するPBCFは、これからも素材を改良していくことや、他製品とのコンビネーションによってより高い省エネ効果を図ってまいります。IMOが掲げる地球規模でのCO₂削減目標(国際海運 GHG ゼロエミッション・プロジェクト)に貢献できるよう、研究を進めてまいります。